更新日:2025年12月1日
※この記事は、開業準備中〜開業5年以内の院長先生が「クリニック経営は厳しい」と感じる背景を整理することを目的に書いています。
「クリニック経営は厳しい」「このまま続けていけるのか不安だ」――そんな声を耳にする機会が増えています。
背景には、財務省による医療費抑制の議論や、 厚生労働省・中医協で進む診療報酬改定、地域医療構想、医師偏在対策、かかりつけ医機能の整理、医療DXの推進など、 医療提供体制の見直しがあります。
なかでも2025年8月27日の中医協(中央社会保険医療協議会)総会資料を見ると、単に「点数が厳しくなる」というより、
「どこで・どんな医療機能を担うのか」が問い直されていることが分かります。
出典: 令和5年8月27日 中医協 総-3「医療機関等を取り巻く状況について」(厚生労働省PDF)
中医協資料と最近の議論が示す3つの変化
中医協資料や財務省・厚労省の資料を眺めると、次の3つの流れが浮かび上がります。
- 1. 医療費の“総額管理”と重点配分
高齢化の進行により医療費の伸びが続く中、財務省は医療費全体の抑制を求めています。
一方で厚労省・中医協は、生活習慣病の継続管理や地域包括ケア、病診連携など、
「治し支える医療」へ重点的に評価を移す方向を打ち出しています。 - 2. 地域医療構想と医師偏在対策
病床再編だけでなく、外来機能も含めた“地域単位”での役割分担が進められています。
都市部の過密と地方の不足を是正するため、医師偏在対策も強化されており、
クリニックにも「この地域で何を担うのか」を示すことが求められています。 - 3. 外来機能・かかりつけ医機能と医療DXの前提化
「紹介受診重点医療機関」とかかりつけ医機能の整理が進み、
患者さんから見て“どこに何を相談すればよいか”が分かりやすい構造に変わろうとしています。
さらに、電子カルテ情報の標準化やオンライン診療などの医療DXは、
もはや“あれば便利”ではなく今後の前提条件になりつつあります。
こうした流れを踏まえると、「クリニック経営が厳しい」というより、
“地域や制度の変化に合わせて役割を再定義しないと、選ばれにくくなる時代”と捉えるほうが実態に近いと言えます。
「厳しさ」ではなく「変化の時代」と捉える
診療報酬改定や制度改正を「また負担が増える」「点数が削られる」とだけ見てしまうと、
発想が“守り一辺倒”になってしまいます。ですが、同じ変化を次のように捉え直すこともできます。
- 外来機能の明確化は、患者さんにとっての導線づくりにつながる。
「この地域で、うちは誰のどんな困りごとを専門的に支えるのか」を言葉にしやすくなります。 - 医療DXの推進は、業務効率化と情報共有のしやすさに直結する。
院内の負担軽減や他機関との連携強化、オンラインでの相談窓口づくりなど、働き方と接点の両方を変える力があります。 - 地域医療構想や医師偏在対策は、「どこで開業するか」「どの地域でどう貢献するか」を考え直す材料になる。
過密地域で同質化した診療をするより、需要と供給のバランスが合う場所を選ぶという視点も持てます。
同じ状況を見ても、「削られる時代」と見るか、「選ばれる理由をつくる時代」と見るかで、
取れる選択肢は大きく変わります。今はまさに、その分岐点にいるタイミングです。
これからの院長先生に求められる3つの視点
- 1. ご自身の医療観を軸にする
「何点取れるか」だけでなく、「自分は誰のどんな時間を支えたいのか」という医療観をはっきりさせておくこと。
制度が変わっても、この軸があるほど判断にブレが生まれにくくなります。 - 2. 制度や環境の変化を“ざっくり構造で”掴む
資料を細部まで読み込む必要はありませんが、
「なぜこういう改定が続いているのか」「国はどこに舵を切ろうとしているのか」といった
全体の方向性を押さえておくと、個々の点数変更に振り回されにくくなります。 - 3. 一人で抱え込まず、“整理する時間”を確保する
変化のスピードが速い時期ほど、院長先生お一人で判断を抱え込むのは負担が大きくなります。
定期的に第三者と一緒に考えを整理する場を持つことで、
「今は何を決めるべきか/まだ決めなくてよいか」を切り分けやすくなります。
「経営を守る」だけでなく、「変化を取り込み、自院らしい形に整えていく」視点を持てるかどうか。
ここが、これからのクリニック経営の大きな分かれ目になっていきます。
おわりに
2025年8月27日の中医協総会資料や、財務省・厚労省の議論は、
「クリニック経営が一方的に厳しくなる」という話だけをしているわけではありません。
むしろ、“地域の中での役割がより鮮明に問われる時代”が本格的に始まったことを示しています。
どこで、誰の、どんな暮らしを支えるクリニックとして歩んでいくのか。
こうした問いを言葉にしながら、自院らしい経営のあり方を整えていくタイミングと言えるでしょう。
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