クリニック経営に正解はある? 院長が納得できる判断を考える
A:あらかじめ用意された一つの正解があるとは限りません。
地域、診療内容、スタッフ体制、院長の考え方によって、必要な判断は変わります。だからこそ、正解を探すだけでなく、自院として納得できる判断を整理することが大切です。
開業準備やクリニック経営の相談では、次のような言葉を聞くことがあります。
「この判断で良いのでしょうか」
「どの方法が一番正しいのでしょうか」
「成功しているクリニックには、共通の正解があるのでしょうか」
クリニックの開業や経営には、大きな投資やスタッフ雇用が伴います。
そのため、できるだけ判断を間違えたくないと考えるのは、ごく自然なことです。
ただ、クリニック経営では、一つの正解を探そうとするほど、かえって判断が難しくなることがあります。
この記事では、クリニック経営に正解はあるのか、そして院長ごとの納得できる判断に近づくために何を整理するのかを考えます。
クリニック経営には前提条件がある
経営判断は、院長の能力だけで決まるものではありません。
置かれている前提条件の影響を大きく受けます。
- 地域の医療環境
- 患者層
- アクセス
- 診療科の特性
- 院長の診療スタイル
- スタッフ体制
- 地域医療の中で担う役割
同じ診療科でも、地域や医療環境が変われば、守るべき制約と活かせる強みは変わります。
また、院長がどのような医療を提供したいと考えているかによっても、クリニックの形は変わります。
- 幅広い患者さんを受け入れる診療を目指すのか
- 専門性を活かした診療を行うのか
- 地域医療の窓口として機能するのか
- 無理なく続けられる規模を重視するのか
こうした条件の組み合わせの中で、クリニック経営の形はつくられていきます。
そのため、ある場所でうまくいった方法が、別の地域でも同じように機能するとは限りません。
医療には標準がある。経営には前提がある
医療にはガイドラインがあります。
診断や治療の場面では、エビデンスに基づいた標準的な方法が示されています。
もちろん患者さんごとの個別性はありますが、医療には比較的明確な拠り所があります。
一方で、経営は少し性質が異なります。
経営では、次のような要素が影響します。
- 患者さんの受診行動
- 人材市場
- 制度や診療報酬の変化
- 院内の役割分担
- 情報共有の仕方
- 院長自身の価値観
そのため、経営には医療のガイドラインのような、唯一の正解があるわけではありません。
むしろ、参考になる事例、考え方のヒント、判断材料が積み重なっている状態に近いと思います。
なぜ「正解」を求めてしまうのか
「結局、どれが正解なのでしょうか」と聞かれることがあります。
この問いは、とても自然なものです。
理由の一つは、医療の世界に標準が存在するからです。
医療は、ガイドラインやエビデンスに基づいて判断する場面が多い世界です。
そのため、経営についても、どこかに正しい答えがあるように感じることがあります。
もう一つの理由は、開業や経営の判断が重いからです。
クリニックの開業には、金融機関からの借入、医療機器の購入、スタッフの雇用など、多くの判断が伴います。
開業後も、採用、設備投資、診療内容、システム導入などの判断は続きます。
だからこそ、できるだけ間違えたくない、一番良い方法を知りたいと考えるのは自然なことです。
「正解」だけで進めると齟齬が生まれることもある
ただ、クリニック経営で「正解」を前提に進めてしまうと、途中で齟齬が生まれることがあります。
理由は、前提が動くからです。
- 想定していた患者さんの受診理由と、実際の受診理由が違う
- 採用市場が変わる
- スタッフ体制が変わる
- 地域の医療環境が変わる
- 医療制度や診療報酬が変わる
こうした変化の中では、当初の想定どおりに経営が進むとは限りません。
半年前には合理的だった判断が、半年後には必ずしも合わなくなることもあります。
これは、誰かが間違えたというよりも、経営の前提が動いているために起きることです。
必要なのは「正解」よりも納得できる判断
相談の場でも、「正解を教えてほしい」と言われることがあります。
その気持ちは自然なものです。
ただ、クリニック経営では、一つの正解を提示するよりも、状況を整理しながら、院長自身が納得できる判断を見つけていくことの方が大切な場面があります。
ここで大切になるのが、納得できる判断という考え方です。
納得できる判断とは、地域の状況、診療科の特性、スタッフ体制、院長自身の考えを整理したうえで、院長が自院として引き受けられる判断です。
それは、誰にとっても同じ答えではないかもしれません。
しかし、判断の背景に整理された思考があると、状況が変わったときにも軌道修正がしやすくなります。
経営では、軸となる考え方を大切にしながらも、状況に応じて動き方を調整していく場面があります。
言い換えると、軸はぶらさず、方法は変えていくということです。
納得できる判断には、整理された前提が必要になる
納得できる判断は、気持ちだけで決まるものではありません。
その前に、整理しておきたい前提があります。
- 自院はどのような患者さんを主に診ていくのか
- 院長はどのような診療を大切にしたいのか
- スタッフ体制として無理がない形はどこか
- 地域の中でどのような役割を担うのか
- 今すぐ決めることと、後で考えることは何か
こうした前提が整理されていないと、情報や事例を見ても、自院に合うかどうかを判断しにくくなります。
逆に、前提が整理されていると、他院の事例や専門家の助言をそのまま受け取るのではなく、自院に照らして考えやすくなります。
クリニック経営で大切なのは、誰かの正解をそのまま採用することではありません。
自院の前提を整理し、院長が引き受けられる判断に近づけることです。
まとめ|正解を探す前に、自院の前提を整理する
クリニック経営には、あらかじめ用意された唯一の正解があるとは限りません。
地域、診療科、院長の考え、スタッフ体制など、さまざまな条件が重なり合い、それぞれのクリニックの形がつくられていきます。
だからこそ重要になるのは、正解を探すことだけではありません。
状況を整理し、考えを整理し、判断材料を整理することです。
- 自院の前提は何か
- 何を大切にしたいのか
- 何を優先するのか
- 何を今はやらないのか
- どの判断なら引き受けられるのか
その整理の先に、院長が納得できる判断が見えてくることがあります。
クリニック経営は、一つの答えにたどり着くものというよりも、その時々の状況の中で判断を重ねていく営みなのかもしれません。
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