クリニックで患者とのトラブルを減らすために見直したいこと
患者さんやご家族とのトラブルは、突然大きな問題として起きるとは限りません。
「ホームページに書いてあることと実際が違う」「予約したのに長く待った」「説明が分かりにくい」「スタッフによって言うことが違う」といった小さな不満や認識のずれが重なり、強い苦情につながる場合もあります。
一方で、暴言や威圧、長時間の拘束、過度な要求など、クリニック側の説明や運用を見直すだけでは防ぎにくいこともあります。
この記事では、患者さんを一方的に「困った患者」と捉えるのではなく、医院側で見直せること、説明によって認識のずれを減らせること、それでも線を引く必要があることに分けて整理します。
患者とのトラブルは、いきなり大きくなるわけではない
患者さんやご家族とのトラブルは、最初から暴言や強い要求として表れるとは限りません。
待ち時間への不満、説明の分かりにくさ、ホームページで見た内容と実際の診療との違いなど、小さな認識のずれがきっかけになることもあります。
正当な不満とカスハラは分けて考える
患者さんから不満や苦情を言われたからといって、それだけでカスタマーハラスメントになるわけではありません。
例えば、「待ち時間が長い理由を説明してほしい」「診療内容について詳しく聞きたい」といった要望は、通常の患者対応の範囲です。
同じ種類の不満が繰り返されているのであれば、患者さん側だけの問題と考えるのではなく、医院側の案内や運用にも見直せることがないか確認してみます。
患者の期待と実際の診療にズレがないかを見る
患者さんは、ホームページ、Google検索・Googleマップ、口コミ、予約画面、電話での説明などを通じて、受診前からある程度の期待を持っています。
その期待と実際の診療やサービスに差があると、「聞いていた話と違う」「思っていた対応ではなかった」という不満につながることがあります。
来院前の情報と、実際の診療内容が一致しているか
患者さんとの認識のずれは、来院してから始まるとは限りません。
受診前に見たホームページやGoogle上の情報と実際の運用が違っていることが、最初の不満につながる場合があります。
ホームページの診療内容・受付時間は最新か
ホームページに掲載している診療内容、診療時間、受付時間、予約方法、初診時の案内が、現在の運用と一致しているか確認します。
- 診療時間と受付終了時間が違うのに明記していない
- 「予約制」と掲載しているが、実際には待ち時間が発生する
- 以前は対応していた診療内容がホームページに残っている
- 初診と再診で予約方法が違うが、その違いが分かりにくい
情報を増やす前に、まず現在掲載している内容と実際の診療が一致しているかを見ることが大切です。
Googleマップ・Googleビジネスプロフィールの情報は一致しているか
患者さんは、自院のホームページだけを見て受診するとは限りません。
Google検索やGoogleマップ上で、診療時間、休診日、電話番号、予約方法などを確認することもあります。
ホームページだけを更新して、Google上には古い情報が残っていると、患者さんからすると「どちらが正しいのか分からない」状態になります。
患者が受診前に誤解しやすい表現はないか
「何でも相談できます」「予約優先」「当日受診可能」といった表現は、クリニック側と患者さん側で意味の受け取り方が違うことがあります。
医院側では条件付きのつもりでも、患者さんは「必ず対応してもらえる」と理解しているかもしれません。
表現そのものを避けるのではなく、どこまで対応できるのか、条件や範囲が伝わる書き方になっているかを確認します。
患者が来院してから迷う場面はないか
来院後に「次に何をすればよいのか分からない」という状態も、患者さんにとっては小さなストレスになります。
受付、待合、診察、検査、会計までの流れを、初めて来た患者さんの立場から見直してみます。
受付から診察までの流れは分かりやすいか
来院したらどこへ行くのか、保険証やマイナンバーカードはいつ提示するのか、問診票はどこで記入するのか。
毎日働いているスタッフにとって当たり前のことでも、初めて来院する患者さんには分かりません。
スタッフが毎回同じ説明をしていることがあれば、患者さんが自分で分かるようにできないか考えてみます。
院内掲示は「ある」だけでなく伝わっているか
必要な情報を掲示していても、文字が多すぎたり、同じ場所にさまざまな掲示物が並んでいたりすると、患者さんが必要な情報を見つけられないことがあります。
「掲示してあるので伝えている」と考えるのではなく、患者さんが必要な場面でその情報に気づけるかを確認します。
初診患者でも次に何をすればよいか分かるか
再診患者は院内の流れを知っていますが、初診患者はそうではありません。
受付後は座って待つのか、検査室へ移動するのか、会計後に処方箋を受け取るのかなど、初めて来院した患者さんが迷いそうなところを洗い出します。
待ち時間への不満を大きくしていないか
待ち時間は、クリニックで患者さんの不満につながりやすい場面の一つです。
ただし、問題は「何分待たせたか」だけとは限りません。
予約時間と診察開始時間の意味が伝わっているか
クリニック側では「この時間帯に受診してもらう」という意味の予約でも、患者さんは「予約時刻になれば診察が始まる」と考えている場合があります。
予約の意味について双方の認識が違えば、それ自体が不満のきっかけになります。
完全に待ち時間をなくせなくても、予約時間が何を意味するのかは事前に伝えることができます。
待ち時間が長くなるときに説明しているか
例えば同じ30分待つ場合でも、何も分からず待つ場合と、「救急対応が入り診察が遅れています」と状況が伝えられている場合では、患者さんの受け止め方が変わることがあります。
正確な時間を約束できなくても、長くなりそうな場合には現在の状況を伝えられないか考えます。
待ち時間そのもの以外に不満の原因がないか
「待たされた」という苦情であっても、詳しく確認すると、別の要因が重なっていることがあります。
- 待ち時間について説明がなかった
- 後から来た患者さんが先に呼ばれた理由が分からなかった
- 受付で質問したときの対応が事務的だった
- いつ呼ばれるのか全く分からなかった
待ち時間だけを問題として捉えず、その前後の患者対応も含めて確認します。
医師・スタッフの対応が事務的になっていないか
クリニックでは、限られた時間のなかで多くの患者さんに対応する必要があります。
効率よく業務を進めることは必要ですが、患者さんからすると、短いやり取りが「雑に扱われた」「話を聞いてもらえなかった」と感じられることもあります。
患者が「話を聞いてもらえなかった」と感じる場面
患者さんが話している途中で説明を始める、パソコン画面を見たまま会話が進む、質問する前に診察が終わる。
こうした行動が直ちに問題というわけではありませんが、患者さんがどのように受け止める可能性があるかは意識しておきたいところです。
説明の短さと、説明不足は同じではない
長く説明すれば患者さんが納得するとは限りません。
短時間でも患者さんが知りたいことが理解できれば十分な場合があります。
逆に長く説明しても、患者さんが「結局、次にどうすればいいのか分からない」のであれば、必要な情報が伝わっていない可能性があります。
忙しいときほど対応の差が出ていないか
混雑時だけ言葉が短くなる、電話では説明を省略する、特定のスタッフに患者対応が集中する。
このような状態がある場合は、個人の接遇だけの問題とせず、業務量や役割分担にも無理がないか見てみます。
スタッフによって説明や対応が違っていないか
患者さんとのトラブルでは、「前はやってくれた」「別のスタッフからは違う説明を受けた」という話が出ることがあります。
スタッフによって説明が変われば、患者さんは何を信じればよいのか分からなくなります。
予約・受付・電話対応の説明をそろえる
予約変更、遅刻、キャンセル、電話相談、当日受診など、日常的に問い合わせがある事項については、基本的な考え方を共有しておきます。
すべてを細かいマニュアルにする必要はありません。
少なくとも、「受付で判断してよいこと」「責任者に確認すること」「医師の判断が必要なこと」などが分かれていると、スタッフも対応しやすくなります。
薬・検査・診断書など対応できる範囲を共有する
患者さんから求められやすい内容について、医師と受付スタッフの認識が違っていると、説明の違いが生まれます。
- 電話で検査結果を伝えられるか
- 診断書を当日に発行できるか
- 薬だけの受診に対応できるか
- 希望する検査を必ず受けられるか
- 家族からの電話問い合わせにどこまで回答するか
自院でよく聞かれることから整理していくと、スタッフ間の説明をそろえやすくなります。
「前はやってくれた」を生まないために確認する
その場を収めるために例外的な対応を行うこともあるでしょう。
ただし、一度対応すると患者さんからは「このクリニックでは対応してもらえること」と受け取られる可能性があります。
例外対応をした場合は、今回だけの対応なのか、今後も同じ運用にするのかを院内で共有しておきます。
患者の希望に応えられないとき、理由を伝えているか
患者さんが希望することに、すべて対応できるわけではありません。
大切なのは、「できません」と伝えて終わるのではなく、なぜ対応できないのかを可能な範囲で伝えることです。
希望する薬や検査に対応できない場合
患者さんが薬や検査を希望していても、医学的な判断から対応できないことがあります。
その際、理由が全く伝わらなければ、患者さんには「希望を聞いてもらえなかった」という印象だけが残る場合があります。
専門的な説明を長時間するということではなく、なぜ今回はその対応をしないのかを、患者さんが理解できる言葉で説明します。
診療できる範囲を超えている場合
専門外の症状、院内設備では対応できない検査、専門医療機関での診療が適している状態など、自院では対応できないこともあります。
ホームページなどで幅広い診療内容を掲載している場合ほど、「どこまで自院で対応できるのか」と実際の診療に差がないか確認しておきます。
できないことだけでなく、次の選択肢も伝える
「当院では対応できません」で終わると、患者さんは次に何をすればよいか分からなくなることがあります。
必要に応じて、他院受診を勧める、次回受診を案内する、紹介を検討するなど、次の選択肢を伝えられると患者さんも判断しやすくなります。
医院側で改善できることと、線を引くべきことを分ける
患者さんとのトラブルを減らすために、クリニック側で見直せることはあります。
しかし、すべてのトラブルを「医院側の対応が悪かったから」と考える必要もありません。
医院側で見直せる不満
例えば、次のようなことは自院で見直せる可能性があります。
- ホームページやGoogle上の情報が古い
- 待ち時間について何も説明していない
- スタッフによって案内内容が違う
- 診療できる範囲が患者さんに伝わっていない
- 予約や電話対応のルールが院内でも曖昧になっている
説明しても繰り返される過度な要求
一方で、理由を説明しても同じ要求を何度も繰り返す、対応できないことを伝えても特別扱いを求め続けるなど、通常の説明だけでは解決しない場合もあります。
この段階では、「もっと丁寧に説明すればよい」と考え続けるのではなく、どこまで対応するのかという線引きを考える必要があります。
暴言・威圧・長時間拘束などは別の対応が必要
暴言、脅迫、威圧、長時間の拘束、スタッフ個人への攻撃などは、患者満足度や接遇改善とは分けて考えます。
スタッフ個人に抱え込ませず、誰へ相談するのか、誰が引き継ぐのか、何を記録するのかなど、クリニックとして対応できる状態を整えておく必要があります。
クリニックにおけるカスハラ・ペイハラへの具体的な備えや、どこからカスハラと考えるのかについては、以下の記事で整理しています。
患者とのトラブルを減らすために、まず何から確認するか
最初からホームページ、院内掲示、予約方法、スタッフ教育などを全部見直す必要はありません。
まず、最近あった患者対応の困りごとを2~3件思い出してみてはいかがでしょうか。
最近あった患者対応の困りごとを2~3件振り返る
- 待ち時間について苦情があった
- 電話対応が長引いた
- 受付と医師で説明が違った
- ホームページの情報と実際の運用が違っていた
- 患者さんから「前はやってくれた」と言われた
抽象的に「患者対応を良くする」と考えるより、実際に起きたことから振り返った方が、見直す場所を見つけやすくなります。
患者側・医院側・院内運用に分けて考える
一つの出来事について、次のように分けて確認します。
- 患者側:何を期待していたのか、何を求めていたのか
- 医院側:何を伝えたのか、実際に何を提供したのか
- 院内運用:ルールや役割分担に曖昧なところはなかったか
誰が悪かったのかを決めることより、同じことが起きたときに次はどうするかを考える方が実務的です。
全部を一度に直そうとしない
患者対応を振り返ると、ホームページ、予約方法、待ち時間、電話対応、院内掲示、スタッフ間の情報共有など、さまざまな課題が見えてくるかもしれません。
すべてを一度に変える必要はありません。
同じトラブルが繰り返されているところ、スタッフの負担が大きいところ、患者さんが誤解しやすいところから優先して見直します。
まとめ
患者さんとのトラブルを減らすためには、接遇だけを見直せばよいわけではありません。
ホームページやGoogle上の情報、予約方法、待ち時間、院内での案内、医師・スタッフの説明、例外対応など、患者さんとクリニックが接するさまざまな場面に認識のずれがないかを確認します。
医院側で改善できることは見直す。説明で減らせる認識のずれは減らす。それでも過度な要求や暴言、威圧などがある場合は、患者対応の改善とは分けて、スタッフを守る対応を考える。
まずは最近あった患者対応の困りごとを一つ取り上げ、「患者さんは何を期待していたのか」「自院は何を伝えていたのか」「院内運用に見直せるところはなかったか」を整理するところから始めてみてはいかがでしょうか。
患者対応について、どこから見直すか迷ったときは
患者さんとのトラブルには、ホームページ上の案内、予約方法、待ち時間、スタッフ間の説明、院内ルールなど、複数の要因が関係していることがあります。
「何が問題なのか分からない」「改善した方がよいことと、線を引くべきことを整理したい」「院長だけでは判断しにくい」といった場合はご相談ください。
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